アミロイドβ仮説の提唱者も、アミロイドβ犯人説に疑問符をつけた
アルツハイマー型認知症の発症原因として、「アミロイドカスケード仮説(Aβ仮説)」や「可溶性アミロイドβオリゴマー仮説(図版①)」「タウ仮説」などが有名です。
しかし、アミロイドβを基礎に置くこれらの仮説は、なかなかアルツハイマー型認知症発症の真相を解明できませんでした。その結果、2014年頃からアミロイドβ仮説に疑問を呈する報告が提出され始めました。
2016年はアミロイドβ仮説が提唱された25周年記念の年でしたが、論文のなかには、アミロイドβ仮説に対する疑問を呈するものが少なくありませんでした。なかでも特筆すべきレポートは、1992年にアミロイドβ仮説を唱えたDennis Selkoe と John Hardyが共同で報告したレポート*1です。
その中の「ペンディング・イシュー」で、「アミロイドβやタウの毒性はどこにあるのか?」「APP(アミロイド前駆タンパク質)の機能は何か?」「アミロイドβはどんな機能を持っているのか?」「非ニューロンも関与している?」と、自らが提唱したアミロイドβ仮説にさまざまな疑問符をつけています。
*1 The amyloid hypothesis of Alzheimer’s disease at 25 Years(EMBO MOL MED8(6):595 ~
608/2016)
脳にアミロイドβが過剰発現したマウスが、ピンピン天寿を全うする!
アミロイドβは、APPから作られます。アミロイドβ研究のために、世界中でAPPの過剰発現マウスが作られました。私たちもAPPの過剰発現マウスを使用し、その脳に大量のアミロイドβをためてみました。
アミロイドβ仮説にしたがえば、こうしたマウスでは、ヒトのアルツハイマー型認知症と同じような症状が出なければなりません。しかし、そうした症状は出ず、脳がアミロイドβであふれてもマウスは死にません。マウスの寿命は長くてほぼ1年ですが、私たちの実験では2年はピンピン生存しています。脳のニューロンを調べるときちんと残っており、シナプスも問題ありませんでした(図版②)